私の師匠であるムッシュ・ドゥニ・リュッフェルはパリ7区にある名店「パティスリー・ジャン・ミエ」のオーナーシェフだ。
1994年、私は彼の仕事に憧れ、海を渡った。それは、私の想像をはるかに超えるものだった。
言葉のハンディなど全く関係なく、常に「正確さ、早さ、力強さ」が求められた。
ある夜、仕事が終わり、彼の手作りのシチューと当時40F(フラン 日本円で約¥800)程のワインで食事をした。
そして、笑顔で「ア.ラ.ティエンヌ」(乾杯、おつかれさま!!)
今思えば専門書の中での遠い存在だった彼が初めて近くに感じられた言葉だった。
決して高価な食材やワインではなかったが、心のこもったもてなしであり、本当に美味しかった。
あの頃のフランスの食文化への憧れと、感動、そして師匠の仕事に対する情熱をいつまでも心に留めておきたい。
何気ない一言ではあるが、「ラ・ティエンヌ」は私の一生の宝物である。